vol.219『背水の陣の初陣——現場の「神」と経営の「鬼」を繋ぐ、たった一つの言葉』

シリーズ①:Re:START NOTE|”止まりながら進む日々”

⏱ 読了目安:約3分

会議室の空気は、マイナス40度の凍土と化した。

「あんたらの綺麗な数字のために、俺たちの誇りを切り売りするつもりか?」

油の匂いが染み付いた作業着で本社に乗り込んだ現場のベテラン——通称「現場の神」たち。彼らを迎えたのは、表情一つ変えずに効率を説くエリート役員——通称「経営の鬼」たち。その両者が対峙した瞬間、会議室は互いの不信感が爆発する一触即発の戦場となった。

かつては「鬼」の側にいた俺が、今は「神」たちの背負う泥臭い現実を代弁する。どちらの言い分も正しく、そしてどちらも致命的に「言葉」が通じていない。この絶望的な断絶を埋めるために、俺は喉元まで出かかったロジックを飲み込み、たった一つの、泥臭い言葉を投げた。

「論理」と「感情」の衝突。その火花を、俺は新しい未来を照らす光に変えなければならない。

こんな人に読んでほしい

  • 異なる価値観を持つ部署同士の板挟みで、胃を痛めているリーダー
  • 「正論を言っているのになぜか反発される」と悩んでいる実務家
  • 組織の分断を本気で解決したいと願う再出発中の人

この記事で伝えたいこと

  • 「正しさ」を競うのをやめた時、初めて対話の扉が開く
  • 専門用語(専門性)という名の壁を取り払う「翻訳」の重要性
  • 一人の人間として「痛み」を共有する覚悟の大切さ

1. 「神」と「鬼」の出会いで変わったこと

現場のベテランにとって、本社の人間は「自分たちの苦労を数字としか見ない冷徹な支配者」だった。対して本社の役員にとって、現場は「変化を拒み、既得権益にしがみつく非効率な集団」だった。

俺はこの対立のど真ん中に立ち、かつての自分がどれほど「経営の鬼」として、相手を理解する努力を怠っていたかを痛感したんだ。「経営の言葉」を「現場の体温」へ、「現場の汗」を「経営の価値」へ。俺がやるべきは指示ではなく、魂の「翻訳作業」だったんだ。

2. 比べないことが教えてくれた「共通言語」

「役職」や「学歴」で人を比べるのをやめた瞬間、見えてきたものがある。それは、形は違えど両者とも「この会社を良くしたい」という、純粋すぎてぶつかり合っている想いだった。

経営の効率も、現場のこだわりも、どちらが優れているか比べること自体がナンセンスだったんだ。俺は「ROA」や「KPI」といった経営用語を一切封印した。その代わりに、「明日、現場の連中が笑って帰れるようにするために、この数字が必要なんです」と、むき出しの感情で語りかけた。

3. それでも前に進む理由

不安は消えない。俺が橋渡しに失敗すれば、プロジェクトは空中分解し、現場の信頼は二度と戻らない。

それでも俺が前に進めたのは、あのライン停止の日に肩を叩いてくれたベテランの、分厚い手のひらの感触を覚えていたからだ。「責任はすべて俺が取る。だから、一度だけ同じ方向を向いてくれ」。その言葉を吐いた時、俺は元社長としてのプライドではなく、一人の「当事者」としての決意をようやく掴み取った気がした。

まとめ

  • 対立の構造を壊すのは、洗練されたプレゼンではなく「等身大の言葉」
  • 相手の領域(テリトリー)に対する「畏怖の念」を忘れない
  • 「どちらが正しいか」ではなく「どうすれば共に勝てるか」の一点に絞る

次回予告

vol.220『逆転のシンクロニシティ——現場の「無理」を経営の「勝ち筋」に変えた奇跡の24時間』

ついに「神」と「鬼」が手を取り合った。しかし、初陣となる新ラインの稼働直前、前代未聞のシステムトラブルが襲う。絶体絶命の窮地で、現場の職人技と経営のスピード判断が火花を散らす。バラバラだった組織が、一つの生命体として「シンクロ」した瞬間の衝撃とは──。

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