続ける勇気より、やめる設計が会社を救った。
「根性」で伸ばした案件ほど、後で会社の首を締めた。
私は“頑張り”を評価しすぎて、値引き・仕様追加・長期フォローを無制限に許した。現場は疲弊、粗利は蒸発、パイプラインは「見込み」で膨らむだけだった。
そこで“撤退条件”を決めた。感情ではなく、数字と事実でやめどきを判断する──それが営業再建の起点だった。

こんな人に読んでほしい
- 長期化・失速案件から抜けられず、営業生産性が下がっている経営者
- 「頑張り」を理由に案件を延命し、粗利とキャッシュを削っている責任者
- 撤退判断が遅く、チームの集中が散っていると感じるリーダー
この記事で伝えたいこと
- “やめる”をプロセスに組み込む視点(撤退条件=Killer Criteria)
- 感情ではなく事実で判断する指標設計(粗利・期日・決裁ルート)
- 撤退後の関係性を守るための伝え方と代替提案
1. 延命で失ったもの、撤退で取り戻したもの
元社長の私は、売上目標に追われるほど「あと少し」で延命した。
価格は攻防の末に下方着地、仕様は“善意”で肥大、決裁者不在のまま面談回数だけ増える。気づけば粗利は10%台、現場はヘトヘト、次の有望案件へ割く時間が消えた。
痛い失敗の後、「やめる基準を先に合意」する運用に変えた。結果、無風の商談に注ぐリソースが大幅に減り、勝てる領域への集中が効き始めた。
2. “やめどき”の設計図(私が運用したKiller Criteria)
属人的な勘をやめ、以下を案件シートに明記し、週次で機械的に判定した。
- 粗利ライン:見積粗利30%未満は役員承認必須。承認なければ撤退。
- 期日ライン:最初の提案から90日で決裁者面談ゼロなら撤退。延長は理由と新アクションがセットの時のみ。
- 決裁ライン:稟議プロセス/キーマン特定が2回商談時点で未把握なら停止。把握できるまで活動凍結。
- 交換条件ライン:値引き要望は前倒し発注・複数年契約・事例協力などの交換条件とセット。それが取れないなら撤退。
- 適合ライン:当社の標準範囲からの逸脱が20%超えたらスコープ再設計。合意できなければ撤退。
同時に、撤退は「関係断絶」ではなく“保留”と“代替”だと定義。
・課題の再定義ワーク(1時間)を無償で提供し、次の見直し期日を合意。
・競合に適した案件なら紹介状を出し、当社の信用を守る。
こうして“丁寧にやめる”ことで、後日に戻ってくる受注が増えた。
3. それでも前に進む理由
「やめる」を決めたから、勝負の山が見えた。
撤退は敗北ではない。限られた時間と現場の体力を、勝ち筋に再配置する意思表示だ。数字に追われるほど、やめどきは見えなくなる。だからこそ、基準を先に言葉にして、全員で守る。
会社を守る優しさは、続けさせることではなく、止める勇気を共有することだった。
まとめ
- “頑張り”は評価する、でも判断は“事実”で行う
- 撤退基準(粗利・期日・決裁・交換条件・適合)を先に合意
- やめ方を設計(保留の期日・代替提案・紹介)して関係を守る
次回予告
vol.23『まだ“これから”があると思えた日』
次回は、撤退で空いた時間を“攻め直し”に変えた話。ターゲット再設計と仮説・検証の回し方、そして小さな勝ちを積み上げた現場の実例をお届けします。
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