安くした瞬間、私たちは“選ばれた”のではなく“使われた”。
受注のために下げた価格は、信用と利益も一緒に削った。
短期の売上に追われ、値引きを合図に商談を進める悪習が社内に定着。粗利は薄く、要求は増え、離反も早い。
元社長として、値引き依存から価値訴求へ舵を切った実録と再設計の要点をまとめる。

こんな人に読んでほしい
- 最終局面で毎回「あと◯%下げられますか?」と言われてしまう経営者・営業責任者
- 売上は伸びても粗利が残らず、現場が疲弊しているチーム
- 値上げや定価維持の筋道を作りたいが、どこから手を付けて良いか迷っている人
この記事で伝えたいこと
- 値引き依存を生む構造(KPI・評価・提案設計)の見える化
- “比較の土俵”を作る価値訴求の再設計(成果設計・リスク削減・運用負荷)
- 価格以外で合意を作る仕組み(導入条件・成功指標・撤退ライン)の運用
1. 失敗:割引がデフォルトになり、ブランドが“安売り屋”に
私は四半期の売上KPIを死守するため、期末だけの特別値引きを繰り返した。
すると顧客は学習する。「どうせ下がる」。現場は値引き前提で見積を作り、価格から会話が始まる。
受注は伸びたが、粗利は半減。サポート範囲は拡大し、契約更新時はさらに値下げ要求。悪循環だった。
2. 学び:価値の“比較軸”を先に提示する——価格の前に、結果とリスク
値引き要請の多くは、比較の物差しが価格しかないことから起きていた。そこで提案構成を刷新。
・成果設計:現状コスト(時間・外注・機会損失)と導入後の改善幅を数式化(前提条件を明示)
・リスク削減:失敗時の損害と、それを最小化する設計(段階導入・データ移行・運用教育)
・運用負荷:社内工数の増減・定着までの伴走体制・SLAを表で提示
価格は最後。“同じ結果を得る別解”と比べる資料に変えた瞬間、会話が変わった。
3. 立て直し:値引きの“ルール化”と価値訴求の“標準化”
再発防止のために、組織の運用を変えた。
・値引きルール:①対価の削除とセット(範囲・納期・支援の何を外すか)②早期一括・期間延長など交換条件必須
・定価運用:ディスカウントをやめる代わりに、成果連動オプション(KPI達成ボーナス)を用意
・提案テンプレ:1枚サマリ+ビジネスケース(ROI)+反論FAQ+導入ロードマップを全商談で標準装備
・評価KPI:受注額ではなく粗利率・値引き率・契約継続率をMBOに組み込み、現場の行動を変えた。
3ヶ月で値引き率は半減、更新率と紹介件数が回復。「安いから」から「それでないと困る」に変わった。
まとめ
- 値引きは「比較軸が価格しかない」症状。成果・リスク・運用の物差しを先に出す
- 下げるなら必ず交換条件と範囲縮小をセットにする
- 組織のKPIを粗利・継続・値引き率に変え、価値訴求を標準化する
次回予告
vol.48『機能を盛り込みすぎた日——“全部入り提案”が失注を招いた』
次回は、盛りすぎ提案で意思決定を遅らせた失敗と、可変スコープで合意を早めた再設計について書きます。
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