vol.51『沈黙が怖かった——“間”が商談を前に進めた日』

シリーズ①:Re:START NOTE|”止まりながら進む日々”

言葉を足すほど、相手の本音が遠のいていた。

沈黙を埋めたのは私の不安で、沈黙を活かしたら相手の意思が動いた。

元社長として「価値を証明しなければ」と焦るたび、私は説明を重ねて“間”を消していた。うなずきは増えるのに、決まらない。ある商談で思い切って“待つ”と決めた瞬間、相手から予算の本音と社内事情が出てきた。

それ以来、私は“話す力”ではなく“待つ設計”で商談を組み直した。

空白のノートと止まったペン——意図した“間”が会話を進めた瞬間

こんな人に読んでほしい

  • 沈黙が怖くて説明が長くなりがちな経営者・営業責任者
  • 面談は盛り上がるのに、次回設定や受注に繋がらないと感じている人
  • 相手の本音(決裁プロセス・予算・利害)を聞き出せずに困っている人

この記事で伝えたいこと

  • “間”を設計する視点(質問→沈黙→要約→確認)の大切さ
  • 自分の不安を管理する具体策(W.A.I.T.ルールと3カウント)
  • 次アクションに結びつく聞き方と締め方

1. 沈黙が怖くて、チャンスをつぶしていた

失注が続いた時期、私は“気まずさ”を嫌って沈黙のたびに機能や事例を足した。相手の表情が曇れば補足、沈黙が続けば価格の話へ——結果、相手は「検討します」で退室。
後日、担当者から「社内の反対派がいて…」「実は別部門の予算を絡めないと…」と本音が出た。初回で聞けたはずの情報だ。沈黙を恐れて上書きしたのは、相手の思考時間だった。

2. “間”を設計したら、意思決定が前に出てきた

私が導入したのはシンプルな3つのルール。

① W.A.I.T.(Why Am I Talking?)カード——ノートの1枚目に大きく「なぜ今、私が話している?」と書く。自分の不安で話し始めたら止める合図。
② 3カウント・ルール——質問の後は心の中で「1、2、3」と数える。相手が考える時間を奪わない。オンラインなら相手のミュート解除音まで待つ。
③ 要約→確認→沈黙の“挟み込み”——相手の発言を30秒で要約し、「今の理解で合っていますか?」と聞いて再び3カウント。ここで初めて“追加情報”が出る。

さらに、意思決定の核心に届くために「表層→構造」の順で聞くテンプレを固定した。
・事実:「導入の目的を一言で言うと?」
・影響:「達成すると、どの指標にいつ影響しますか?」
・構造:「決裁の登場人物と、反対されやすい論点は?」
・現実:「今日、持ち帰って相談するとしたら何が障壁ですか?」
これだけで、商談の“空白”が“深掘りの時間”に変わった。

3. それでも前に進む理由

沈黙を怖がるのは、売上責任を背負う経営者の性(さが)だと思う。だから私は“間”を個人技にせず、チームの運用に組み込んだ。
・面談は2人参加(聞き役と記録役)。聞き役は3カウントを守り、記録役は要約文をチャットで支援。
・最後の5分は「次回の日時・テーマ・双方の宿題」を読み上げ合意。メールはその場で下書きまで作る。
こうして沈黙は恐れる対象ではなく、意思決定を引き出すための“チームの戦術”になった。

まとめ

  • 沈黙は空白ではなく、相手の意思が立ち上がる時間
  • W.A.I.T.と3カウントで“不安ドリブンの説明”を止める
  • 要約→確認→(あえて)沈黙→合意で、次アクションに繋げる

次回予告

vol.52『断られてから始まった——失注フォローが縁を育てた日』

次回は、「お断り」メールから関係が深まった逆転劇。読者の皆さんにも多い“失注後の気まずさ”を超える具体的なフォロー術と、元社長のやらかし&改善事例を紹介します。

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