他社のKPIに合わせた瞬間、うちの強みは消えた。
「市場の標準」に自社の歩幅を合わせて空回りした。
元社長の私は、成長企業のベンチマークを真似し、商談回数・提案本数・新規比率を一気に引き上げた。結果、現場は追い立てられ、提案の質は薄まり、解約が先に増えた。
営業は“速さ”より“自分たちのリズム”。歩幅を取り戻すまでの失敗と修正を残す。

こんな人に読んでほしい
- 他社事例をそのままKPIに落として現場が疲弊している経営者
- 短期指標を追うほど提案品質が落ちていると感じる営業責任者
- 「スピードアップ」の号令で離反・解約が増え始めた組織のリーダー
この記事で伝えたいこと
- 速さの最適値は会社ごと・商材ごとに違うという前提
- 営業リズムを測るための“歩幅KPI”(滞留日数・提案準備時間・顧客側意思決定周期)
- 自社の速さを取り戻すための現場主導の再設計
1. 他社速度に合わせて崩れたこと
失敗は単純だ。新規商談数を月間2倍に増やし、提案までのリードタイムを半減させた。
しかし当社はカスタマイズ比率が高く、要件定義に最低でも2回の現場ヒアリングが必要だった。ショートカットの結果、企画は汎用化し、受注後に手戻りが発生。
目先の“速さ”は作れたが、粗利は削れ、CSは疲弊、アフターの対応遅延で解約率が上がった。スピードは上がったのに、目的地から遠ざかった。
2. 自社の“歩幅KPI”を定義する
現場と再計測した。私たちに必要だったのは件数ではなく、適切な歩幅だ。
具体的には以下を月次KPIへ昇格:
- 案件滞留日数(フェーズ別):案件が止まる“癖”を可視化し、無理な前倒しをやめる
- 提案準備時間の中央値:最低ラインを設定し、準備時間を削る受注を禁止
- 顧客側の意思決定周期:先方の稟議リズムに合わせ、節目ごとに仮説検証を入れる
- アフター稼働の確保率:新規の“速さ”が既存支援を壊していないかを監視
会議体も変更。週次は「未達の詰め」ではなく、歩幅逸脱アラートの是正会議に。
提案は「1課題・1解決・1検証指標」に絞り、顧客の稟議材料フォーマットを共通化して提案回数を減らした。
3. それでも前に進む理由
案件数は落ち着いたが、受注後の手戻り率と解約率は下がった。
速く“見せる”のは簡単だ。だが、同じ歩幅で完走する方が難しく、価値がある。
経営者がやるべきは、現場が自分たちの速さを守れるように、構造で支えることだ。
まとめ
- 他社ベンチマークの“速さ”は、その会社の設計あってこそ
- 自社の歩幅KPI(滞留・準備・稟議周期・アフター)で逸脱を検知
- 件数より、完走率と手戻り率を営業のコア指標に据える
次回予告
vol.18『“どこかで繋がっている”という感覚』
次回は、点で終わる商談を線に変えた“縁の設計”について。紹介・再訪・共同提案――関係が巡る仕組みづくりを語ります。
おまけ・SNS連携
更新情報はX(旧Twitter)でも発信中!
@Okin_san_
元社長のリアル再出発ストーリーをお届けします