数字は語らない“行間”を、経営者が拾えるか。
「提案は的確だったのに、なぜか断られた。」
私が社長だった頃、仕様・価格・納期はすべて条件を満たしていたはずの案件が連続で失注した。会議では“競合に負けた”で片付けたが、現場の録音を聴き返すと、顧客の沈黙、言い換え、ため息——言葉にならないシグナルを私たちは見落としていた。
「答えは顧客の言葉の外側にある」。失敗の山を越えて学んだ、行間の拾い方と営業設計のやり直しを書き残す。

こんな人に読んでほしい
- 仕様は合っているのに、最終段階で失注が続く経営者
- 顧客ヒアリングが“アンケート化”してしまっている営業責任者
- 会議で「顧客は価格と言った」に疑問を持ちながら深掘りできていないリーダー
この記事で伝えたいこと
- 言語化されないニーズを検知する“行間KPI”という視点の大切さ
- 経営者が現場で使える質問設計とサインの読み取り方
- 提案前後のプロセスを微調整して受注率を底上げする一歩
1. 「言ってくれない」ではなく「聞けていない」:私の失敗
失注分析会で私は「価格が合わなかった」で片付けた。だが実際は、導入後の運用責任の所在や社内政治の摩擦といった“言いにくい懸念”を見逃していた。
商談録音をテキスト化すると、顧客の言い換え(例:導入=検討、今月=しばらく)、間(3秒超の沈黙)、笑いの少なさが一貫していた。私は数値KPIばかりを追い、会話の質指標を仕組みに入れていなかった。
2. 行間を拾う設計:質問・記録・評価を変える
以降は、言葉の外側を仕組み化した。ポイントは「聞き方」「残し方」「測り方」。
- 聞き方(質問の順序):事実→理由→懸念→失敗経験→理想の順で必ず聞く。特に「過去に似た導入で何が起きましたか?」は鉄板。沈黙は3秒待つ。
- 残し方(記録の粒度):議事メモに直接話法で一文を残し、非言語サイン(沈黙秒数・言い換え・表情)を括弧で追記。例:「今月に(言い換え:しばらく様子見)」。
- 測り方(行間KPI):定量KPIに加え、共感反応数(うなずき/笑い)、懸念の自発開示数、意向表明フレーズ数(〜したい/〜でありたい)を収集。管理表で商談の“温度”を見える化した。
- 提案の微調整:仕様書の前に、「失敗シナリオの先回り」一枚を添付。運用負担の見える化、社内合意の段取りまで提案に含める。
3. それでも前に進む理由
行間KPIはすぐに数字に出ない。だが、懸念の自発開示が増えた商談は、受注後の解約率が明確に下がった。
経営者が現場の会話の“温度”を定点観測すると、「値引きで押し切る」以外の勝ち筋が見え始める。言葉にしない想いは、確かに存在し、拾えば結果は変わる。
まとめ
- 価格理由の失注の裏には、言いにくい懸念が隠れている
- 質問順序・非言語記録・行間KPIで“会話の質”を仕組み化
- 提案には「失敗シナリオの先回り」を必ず一枚添える
次回予告
vol.20『過去の自分に、救われることもある』
次回は、かつての施策・資料・失敗記録がピンチを救った実例。棚卸しと再利用で、営業を強くする方法を語ります。
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