数字は嘘をつかない。けれど、現実の一部しか映さない。
ダッシュボードは青信号だった。なのに、現場は赤だった。
元社長の私は、綺麗に右肩上がりのグラフを信じ切っていた。CVRは上がり、解約率は下がり、粗利率も改善——そう“見えた”。だが、指標の定義変更、母数の偏り、裏で増えていた手戻り工数。数字は正しく、私の読み方が間違っていた。
この記事では、指標に頼りすぎて意思決定を誤った失敗と、数字を“現実に近づける”ための再設計を整理する。

こんな人に読んでほしい
- 数字は良いのに、現場感と一致しない違和感を抱えている経営者・管理職
- KPI/KGIの設計や定義変更で失敗した経験があるリーダー
- “見せる数字”ではなく“役に立つ数字”に作り直したい人
この記事で伝えたいこと
- 数字が現実を隠すメカニズム(定義・母数・集計粒度・ラグ)
- ダッシュボード再設計の要点(先行指標・遅行指標・対照指標)
- 数字の“読み違い”を防ぐ運用ルール
1. 指標が良いのに、成果が出ない——何を誤読したか
失敗の核心は3つあった。
①定義変更を「注釈」で済ませた:CVRの分母から特定チャネルを除外。紙面上は改善、実態は横ばい。
②母数の偏り:解約率は減少に見えたが、低解約の長期顧客比率が増えただけ。新規の品質は悪化。
③集計粒度とラグ:月次集計では“平均化”され、週次の手戻り工数やクレームの急増を見逃した。
どれも数字は正確だった。ただし、意思決定に役立つ“現実”ではなかった。
2. ダッシュボードを現場に寄せる再設計
再設計のポイントは、先行・遅行・対照をセットで持つこと。
先行指標:一次接触から提案までのリードタイム、一次返信率、初回満足度(CS初回NPS)。
遅行指標:CVR、解約率、粗利率、LTV。
対照指標:手戻り工数、顧客問い合わせ件数、クレーム再発率。
さらに、定義書を1ページで作成し、更新は承認制+変更履歴を残す。ダッシュボード上には“定義変更アラート”を表示し、時系列の断絶を見える化した。
3. 数字の「読み違い」を減らす運用ルール
週次の15分レビューは「数字→現場の声→仮説→次の一手」。グラフの良否に関わらず、現場の違和感を必ず1件拾う。
アラート設計は“単発”より“トレンド”を重視(3週連続なら発火)。
監査質問を固定化:「定義は変わっていないか?」「母数の構成は安定しているか?」「平均に埋もれた分布はどうか?」。
これで、数字が示す“物語”を過信せず、現場の“事実”と突き合わせられるようになった。
まとめ
- 数字は正しくても、現実をすべては語らない——定義・母数・粒度・ラグを疑う
- 先行・遅行・対照の三点セットで、ダッシュボードに奥行きを持たせる
- 運用ルール(レビュー・アラート・監査質問)で“読み違い”を減らす
次回予告
vol.33『現場の声を握りつぶした日——サーベイ失敗と信頼回復まで』
好調な数字に安心して、現場の赤信号を見過ごした私。崩れた信頼をどう積み直したのか、サーベイ設計のやり直しを失敗談込みで書きます。
おまけ・SNS連携
更新情報はX(旧Twitter)でも発信中!
@Okin_san_
元社長のリアル再出発ストーリーをお届けします