vol.213『聖域なきリストラ——元社長が下す、最も残酷で、最も愛のある決断』

シリーズ①:Re:START NOTE|”止まりながら進む日々”

⏱ 読了目安:約3分

かつて拡大を夢見てペンを握った手が、今は「去る者」のリストを握っている。

「執行役。それが、再出発した俺に与えられた『最も汚い』、そして『最も重い』仕事だった。」

会議室のデスクに置かれた、50名のリスト。そこには、俺がかつての会社で共に汗を流した部下たちの名前も含まれていた。経営不振による大規模な人員削減。会社は、一度すべてを失った経験を持つ俺に、その実行役を託したのだ。

人の人生を切り捨てる残酷さと、組織を守るための冷徹な理。情に溺れれば組織が沈み、理に寄りすぎれば心が死ぬ。元社長という「看板」を捨てたはずの俺が、再び「命の選択」という業(ごう)を背負うことになった。

こんな人に読んでほしい

  • 不本意ながらも「非情な決断」を下さなければならないリーダー
  • 「優しさ」と「甘さ」の違いに悩み、板挟みになっている管理職
  • 人の上に立つことの本当の「痛さ」を知りたい人

この記事で伝えたいこと

  • 「誠実な冷徹さ」こそが、相手の人生に対する最後の敬意であること
  • リーダーが負うべき罪悪感の「質」と向き合い方
  • 組織を存続させることが、去りゆく者への唯一の報いであるという視点

1. かつての戦友との「再会」という地獄

面談室のドアが開くたび、心臓が焼けるような感覚に襲われた。かつて「お前を一生守る」と約束し、共に夢を語った元部下。彼らが今の俺の前に座り、絶望の表情を浮かべる。かつての俺なら、その痛みから逃げるために事務的な通告で済ませただろう。

しかし、今の俺は逃げない。彼らの怒りも、涙も、すべてを正面から受け止める。それが、一度会社を潰した俺ができる、最低限の「責任」の取り方だと悟ったからだ。

2. 比べないことが教えてくれた「愛のある冷徹」

「自分の時の苦しみに比べれば…」などという比較は、相手に対して最も失礼な慢心だ。彼らにとっては、今この瞬間が人生最大の危機なのだ。俺は自分の経験を盾にするのをやめた。

その代わり、彼らが次の場所で再出発できるよう、今の会社が提供できる最大限の補償と、俺個人が提供できる限りの「次へのアドバイス」を全力で伝えた。目を逸らさず、本音でぶつかる。それが、嘘の優しさで茶を濁すよりもずっと「愛のある」決断なのだと、自分に言い聞かせ続けた。

3. それでも前に進む理由

50人との面談を終えた夜、手の震えが止まらなかった。それでも俺は前を向く。ここで立ち止まれば、残された100人の社員の未来まで失われるからだ。

リーダーの孤独とは、誰からも理解されない「汚れ役」を完璧に演じきることにある。かつての栄光もプライドも、この重い沈黙の中で完全に削ぎ落とされた。残ったのは、泥水を啜ってでも組織を生かそうとする、剥き出しの「覚悟」だけだった。

まとめ

  • リーダーの「優しさ」は、時に組織全体を殺す毒になる
  • 相手の痛みを自分も背負うこと、それが決断の最低条件
  • 去る者の犠牲の上に、今ある「生」が成り立っていることを忘れない

次回予告

vol.214『去り行く友への弔辞——「さよなら」の代わりに交わした、最後で最高の握手』

リストラの嵐が去った後、俺の前に現れたのは、リストの最後に名前があった「あの男」だった。罵倒されることを覚悟した俺に、彼が差し出した右手の意味。そこには、ビジネスの冷徹さを超えた、魂の再会が待っていた──。

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