vol.215『新たな敵——現場のベテランが突きつけた、元社長への「不合格通知」』

シリーズ①:Re:START NOTE|”止まりながら進む日々”

⏱ 読了目安:約3分

「あんたの言ってることは正しい。でも、あんたの言葉じゃ俺たちは動かねえよ。」

「社長ごっこは、もう終わりですか?」

リストラという地獄の執行役を終え、ようやく組織が回り始めると信じていた俺の前に立ちはだかったのは、現場を30年支えてきた叩き上げのベテラン社員だった。彼の冷ややかな視線は、俺が積み上げてきたロジックや「元社長」としてのプライドを、一瞬でガラクタに変えてしまった。

経営の数字は語れても、現場の汗の重さを知らない。そんな俺に突きつけられた「不合格通知」。本当の戦いは、会議室ではなく、油の匂いが染み付いた現場で始まったんだ。

正論だけでは人は動かない。現場の「誇り」という厚い壁に、俺はどう立ち向かうべきか。

こんな人に読んでほしい

  • 理論は完璧なはずなのに、現場がなぜか協力してくれないリーダー
  • 新しい環境で「部外者」扱いされ、疎外感を感じている人
  • 言葉の重み、信頼の稼ぎ方を根本から見直したい人

この記事で伝えたいこと

  • 「正論」は相手を追い詰める武器にしかならないという視点
  • 現場の専門性に対する、形だけではない真の敬意の持ち方
  • 肩書きを捨てた後、最後に残る「信頼」という通貨の稼ぎ方

1. 叩き上げのベテランが放った一言

「効率化」や「最適化」——社長時代には当たり前に使い、魔法のように機能した言葉たちが、現場では空虚に響く。面談室で彼と向き合った時、俺は良かれと思って改善案を提示した。しかし、彼は俺が話し終えるのを待たず、静かに、しかし重く言い放った。

「あんた、この機械の音が昨日と今日でどう違うか、わかるか?」
答えに詰まる俺を見て、彼は鼻で笑った。俺が「全体最適」という名の空論を振りかざしている間に、彼らは五感を研ぎ澄ませて現場を守っていた。その圧倒的な実力を前に、俺の言葉は重みを失い、ただの「社長ごっこ」に成り下がったんだ。

2. 比べないことが教えてくれた「手の汚れ」

経営者の視点と、現場の視点。どちらが正しいかを比べることに意味はなかった。かつての俺は、高台から全体を眺めて指示を出すことが「仕事」だと思っていた。だが今の俺は、その高台から降り、地面を這いつくばる一人の労働者だ。

彼の真っ黒に汚れた手と、俺の白く清潔な手を比べたとき、恥ずかしさが込み上げた。信頼とは、綺麗なオフィスで練り上げるものではなく、泥臭い場所で共に汗を流した分だけ蓄積されるもの。比較すべきは他人の実績ではなく、昨日よりどれだけ相手の苦労を理解できたか、という俺自身の「心の歩み寄り」だったんだ。

3. それでも前に進む理由

「不合格」と言われたことが、逆に俺を自由にした。期待されていないのなら、あとは失うものなど何もない。俺はスーツを脱ぎ捨て、作業着に袖を通した。まずは彼らの仕事の邪魔にならない程度に、現場の掃除や雑用から始めることにした。

鼻で笑われても、無視されてもいい。かつて数百人を動かした元社長が、今は一人のベテラン社員の背中を追っている。この「屈辱」の先にしか、本当の再出発はない。俺は自分の手も、真っ黒に汚してみたくなったんだ。それが、彼らと同じ景色を見るための唯一の切符だから。

まとめ

  • 「正しさ」よりも「理解」を優先させる
  • 現場への敬意は、言葉ではなく「行動」で示す
  • ゼロからの信頼構築こそ、再出発の醍醐味である

次回予告

vol.216『油にまみれた真実——「頭」で稼ぐのをやめ、「手」で信頼を掴み取った日』

現場の雑用を始めて一週間。相変わらず冷ややかな視線の中、突如として工場のラインが止まる重大トラブルが発生する。パニックになる現場で、元社長の俺が取った「想定外の行動」とは。知識ではなく、魂で現場と繋がった瞬間の記録をお届けします。

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