vol.214『去り行く友への弔辞——「さよなら」の代わりに交わした、最後で最高の握手』

シリーズ①:Re:START NOTE|”止まりながら進む日々”

⏱ 読了目安:約3分

握った手の震えが、言葉よりも深く「再会」を物語っていた。

「あんたのせいじゃない。俺たちの物語が、ここで一旦終わるだけだ。」

リストラ面談の50人目。最後に現れたのは、かつて俺が経営していた会社で右腕を務めてくれた、文字通りの「戦友」だった。今の会社で彼をリストに入れる決断をした時、俺は自分の右腕を切り落とすような痛みを感じた。「裏切り者」と罵倒されることを、むしろ願っていたのかもしれない。

だが、彼は俺に向かって静かに右手を差し出した。その瞬間に交わした握手。それはビジネスの冷徹な契約を、人間の温かな絆が塗り替えた瞬間だった。

「終わり」ではなく「再会」への約束。握手の中に、言葉にできないすべての感情を込めた。

こんな人に読んでほしい

  • 大切な仲間との別れに、深い罪悪感を感じている人
  • 仕事の役割と個人的な感情の板挟みで、心が壊れそうな人
  • 「さよなら」を前向きな一歩に変えたいと願う人

この記事で伝えたいこと

  • 誠実に「汚れ役」を全うすることが、相手への最大の敬意になる
  • 過去の因縁を越えて、今の自分ができる最善を尽くす勇気
  • 本当の信頼関係は、極限状態の「引き際」にこそ現れる

1. 50人目の宣告、そして「救い」との出会い

面談室の空気は、これまでで最も重かった。彼が椅子に座るなり、俺は頭を下げた。「君を救えなかった。俺はまた、仲間を守れなかった」。言葉が震えた。かつて俺を信じてついてきてくれた彼を、俺は二度も「放り出す」ことになるのだから。

しかし、彼は笑った。「何て顔してんですか。あんたが社長だった頃より、ずっと人間臭くていい顔ですよ」。彼は俺の差し出した退職勧告書を、まるでお守りのように丁寧に受け取った。彼のその優しさが、俺の頑なな罪悪感を、静かに、しかし力強く溶かしていった。

2. 比べないことが教えてくれた「今、この手」の価値

かつて何百人も雇っていた「全能の俺」と、一人の友人の雇用すら守れない「非力な俺」。そんな比較に何の意味もなかった。今の俺にできるのは、巨大な権力で守ることではなく、一人の人間として、彼のこれからの人生に全力でエールを送ることだけだった。

面談の最後、どちらからともなく手が伸びた。ゴツゴツとした、共に現場で戦ってきた男の手だ。その温もりを感じた時、俺はようやく「元社長」という呪縛から解放された気がした。ビジネスの役割を超えたところで、俺たちは対等な人間として、再び繋がることができたのだ。

3. それでも前に進む理由

彼をエレベーターで見送った後、俺はしばらくそこから動けなかった。けれど、不思議と心は軽かった。彼が最後に残した「またどこかで、一緒に面白いことしましょう」という言葉。それを嘘にしないためには、俺はここで腐っているわけにはいかない。

傷つくことを恐れて「汚れ役」を避けていたら、この握手には辿り着けなかっただろう。再出発の旅は、まだ始まったばかり。失ったものは大きいが、握手の手の中に残った「信頼」という小さな種を、俺は今の組織で、大切に育てていくと決めた。

まとめ

  • 逃げずに伝えた本音こそが、相手の心を救うこともある
  • 「役割」を全うした先に、本当の「人格」の繋がりが生まれる
  • 別れの痛みは、再会を約束するためのエネルギーに変えられる

次回予告

vol.215『新たな敵——現場のベテランが突きつけた、元社長への「不合格通知」』

リストラの嵐が過ぎ去り、ようやく平穏が訪れるかと思いきや、次は現場からの猛反発。叩き上げのベテラン社員が俺に向けた冷ややかな視線。「社長ごっこは、もう終わりですか?」──現場の誇りと元社長のプライドが激突する、新たな試練について書きます。

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